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父の顔

その前の晩、母から電話があった。

「ほんとは、言わないつもりだったけど、」

と前置きして、母がした話は

想像を超えた内容だった。

父が二階の窓の手すりを使って首つり自殺を図ったが、

母の叫び声を聞いた

隣の人が来て

何とか食い止めた、というもの。

助けてくれた人が、

このことは娘さんたちに知らせたほうがいい

と言ってくれて、

母はようやく私たちに連絡する気になったらしい。

父も母も、

人を恃むのをえらく嫌がる人たちだから、

母は私たちにも言わないつもりだったのを

なぜか、その人は見抜いてくれたのだろう。

すぐにでも実家に行きたい気持ちだったが、

実家までは、3時間はかかる。

おまけに、

こちらも、娘がメンタルの調子が悪く、

帰りたいけれど電車に乗れない、というので

私が車で迎えに行って帰省中。

翌日は、私が車で送りに行くことになっていた。

それで、実家には妹に行ってもらうことにした。

妹は、実家からから40分くらいのところに住んでいる。

夜、父は、導眠剤を飲んでとりあえず寝たらしい。

母と妹はまんじりともせず朝を迎え、

とりあえず病院に行こう、と連れ出した。

私のほうは、娘の送りは家人にまかせ、

私は実家に向かった。

その頃の交通事情では、

実家に向かうのにJRの駅まで出るのと、

高速バスを利用するのと二つの方法があった。

バスは時間が読めない

だから、頭では、JRで行くべきだとわかっていた。

でも、私は、バスを選んだ。

一刻も早く父に会わなければと思うのと同時に、

恐ろしい事実と向かい合うのを

一刻も先に延ばしたかったから。

それで、父と母と妹の病院行きには

結局合流できなかった。

いや、父が抵抗して、結局精神科はおろか

かかりつけの医者にも行けなかったのだから、

「病院行き」にはならなかったのだが・・

実家で父の話を聞いた。

父が長いこと、自殺を考えていたこと、

母も道連れにしようかと思ったこともあること、

しかし、それはやめたこと。

そんなことは、もうしないで、

と私たちは涙ながらに話をしたけれど、

その言葉が父の心に届いていないことは、

父の様子を見てわかった。

それでも、父が何か前向きになってくれれば、

という気持ちで、

妹と二人で、

父にパソコンのメールの使い方の説明をしたりしてから

実家を後にした。

玄関での別れ際、

父の顔は、とても悲しそうだった。

「もう、決めてしまっていて、

その気持ちを変えることはできないんだ」

私は覚悟した。

だから、せめて、父に駆け寄り

ハグしたいと思った。

でも、私はしなかった。

次の日、父は、勝手に旅立った。

あの時の父の顔、

いつの間にか思い出せなくなったしまった。

悲しそうな顔だった、

ということは覚えているのに、

具体的にどうしても思い出せない。

きっと、

それにまつわる感情とともに

記憶に「蓋をしてしまった」んだろう。

今日は、[父の顔を最後に見た日」。

そんなの記念日にならないけど。

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